hoimicleの日記

اسمي هويميكل

【医療記】麻酔科って楽なの?

この記事のポイント
  • 麻酔科医は体力的に楽な面もある一方、単独で生死に関わる判断を下す精神的な重圧が大きい。
  • 時短勤務やバイト医の増加により、現場で普通に働く麻酔科医に負担が偏る「不公平感」が課題となっている。
  • 麻酔は「マインスイーパー」のような知的ゲームであり、反復・丁寧な作業と自己肯定感の高さが適性に繋がる。

1. はじめに:研修医向け「麻酔科」説明会でお話ししたこと

先日、研修医の先生たちに麻酔科をPRする機会があった。

一般で言うところの、会社説明会みたいな感じだ。

 

他の同僚達は耳障りの良いことしか言わなくて、さすがに研修医たちは聞き飽きているだろうから、彼らが本当に聞きたいであろう内容を考えて話させてもらった。

 

もちろん、流石に社長や部長の前では言えないような内容はパワポから削除した。他にも言いたいことは沢山あったので、それをブログに書こうと思った次第である。

 

医療関係者でなくても極力分かるように書くつもりだし、一部社会問題になっている内容でもある気がするので是非読んで欲しい。

まぁでも、一番はこれから進路を決める予定の研修医向けかもしれない。

自分が麻酔に関して話すなんて、烏滸がましいのは百も承知だけれど、そこはお許し頂きたい。

 

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2. 麻酔科は楽なのか?:体力的なメリットと精神的な重圧

まずは、タイトル回収といこう。

 

「麻酔科って楽なの?」

手術室でコーヒー飲みたいよね

という問いに対する答えだけれど、

若い時は、「体力的には他科より楽、精神的には他科よりやや疲れる」

という所が妥当だと思う。

ここでいう他科は、大学病院の一般的な外科や内科と考えてもらうとよい。 

 

まず、体力的に楽な理由だけれど、

何より一番大きいのは入院してる人を見なくていいところだ。

手術室でしか患者さんにあわないので、休みの日に病院に行く必要はないし、電話がかかってくることもない。それだけで、他の科とは1段階レベルが違う。

 

似たような科は他にもある(放射線、病理、もしくは病棟管理が容易なマイナー外科等)。

それらと比べると、急患による拘束や当直の回数などを踏まえればやや辛い。

とはいっても、激務を強いられる救急、ハイパー外科、内科に比べれば雲泥の差だと思われる。

現在の制度では、1人の麻酔科医が同時に担当していいのは1つの症例までであるから、上限値を超えることはないというのもある。

 

一方で、精神的にきついというのは、

新人であろうが関係なく、ほぼ一人で責任を負って判断を下さなければいけない、かつ、その判断が生死に直結する。

というところだ。

 

これは麻酔科の面白いところではあるのだけれど、やっぱり負荷は大きい。

勿論、指導ポジション、責任者ポジションの人はいるけれど、結局は一人に降り掛かってくる。

 

その分、成長は早く、一人前と呼ばれるのに、個人的には8年くらいかなと思う。他の科ならまだ下っ端もいいところだろう。

 

そして、その頃には、緊急対応、循環・呼吸管理などの医者としてカッコいいスキルがどこの科より身につく(身についた気になる)。

 

他にもいいところをあげるとすると、

人付き合いが楽なところだろう。

飲み会などは少なめで、パワハラを受ける時間も必然的に短い。

 

また、給料も悪くはない。専門性が高く、人手不足なこともあってか、若いうちから勤務医の一般平均をやや超える額が貰える。特に、「実務時間で割って時給換算してしまえば間違いなくトップクラス」だと思われる。

 

ここまで聞けば、麻酔科っていいじゃん、と思う人も多いことだろう。

実際、麻酔科医になる人は増えている。

 

しかし、無痛分娩のニュースなどでも問題点として上がっていた通り、麻酔科は人手不足である。

 

それは何故か、極端な事を言うと、、、、、、

3. 現場に漂う「不公平感」

「よく働く麻酔科医が少ない」

からである。

 

まず、時短勤務の(子供のいる)女医さんが多い。

そして、辞めてしまう人も多い。

この、辞めてしまった人も、週に1か2回は、「楽な」麻酔をしたりしている。バイト麻酔科医と呼ばれる。

 

この状態が、現在の麻酔の環境を酷く悪いものにしていると僕は考えている。

 

その根底にあるのは、「不公平感」だ。

 

例えばだけれど、

ママさん麻酔科医が、子育てをするために時短で働かなければいけないのは理解している。

でも、その旦那さんの多くも医者である。まず、間違いなく、金銭的に困っている人はいない。

バイト麻酔科医の人たちは、常勤よりも遥かに時給がいい。それなのに責任は軽く、定時で帰る。

 

そして、そんな彼女/彼らが担当する症例は、必然的に難易度や緊急度が低く、手術時間も短いものになる。

結果的に、普通に働いている麻酔科医たちは、美味しくないところだけを我慢して激務に勤しむことになる。

 

勿論、例外なんて幾らでもあり、とても頑張っているママさん、バイト医も沢山いる。だけれど業界全体に、この「不公平感」が鬱々と漂っていることを否定する麻酔科医はいないのではないだろうか。

 

その点、所謂ハイパー科は頑張りやすい環境であると思う。周りの人が自分より頑張っていると、自然と頑張ろうと思うものである。

 

実際、自分が集中治療科にいた時は、麻酔科の時より遥かに忙しかったのだけれど、

周りの医師も、命を削りながらも本気で人を救いたいという雰囲気は心地よい。

しかし、それは過労の原因であることは間違いないので、必ずしも良いことではない。

 

そんな、ハイパーな環境で働いている医師たちも、

他の楽な科を見ると不公平感を抱くことになる。

SNSはそれに拍車をかけている。

 

この不公平感というものは、多くの医療関連の問題に根ざしていると思う。

最近問題となっている、直美、男性優位、外科医不足、地域医療不足、etc

医師の中で内輪揉めが絶えないのは、各々が胸の中に不公平感を抱いているからかもしれない。

 

それが、麻酔科では、科の中でより強く発生していると認識してもらえればいい。

 

「他人を見ない」、それで済む話なのだけれど。

 

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4. 麻酔科医の適性:「マインスイーパー」との共通性

さて、ここからは少し話を変えて、

「麻酔科医の適性」みたいなものについて書いていきたいと思う。

 

麻酔科には、向き、不向きが間違いなくある。

 

麻酔科医の適性を考える上で、まず触れておきたいのが、麻酔の大家であられる、稲田栄一先生の言葉だ。

 

著書のなかで、麻酔を「知的ゲーム」と表現されている。

しかし、具体的に、このゲームに近いといった内容は書かれていない。

 

1人のゲーム好きとして、麻酔はどのゲームに近いかを考えてみたのだが、麻酔をゲームに例えるならば、「マインスイーパー」が最も適していると思う。

久しぶりにやったなぁ

ドラクエやFFといったRPGの様な「チームを組んで」「レベルを上げていく」という要素は、むしろ外科に近い。

 

麻酔は、毎回イチから「新しい症例」である。

 

患者さんの状態、手術の内容、既往歴、合併症など、与えられた情報から地雷(合併症や予期せぬ事態)の位置を推測し、安全なルート(麻酔計画)を組み立てていく。

プレイヤーである麻酔科医それぞれにアプローチは異なるのだけれど、共通する目標は、「安全にクリアすること」である。

若干のタイムアタック要素があるところや、地雷を踏んでしまったら、ヤバいことになってしまうところも似通っている。

 

様々な難易度はあれど、、麻酔科医はこの「マインスイーパー」を幾年も続けていくことになる。

 

麻酔科であれば、他科の医師や、研修医の先生から「飽きないの?」と聞かれることはあるのではないだろうか(そんな失礼なやついないか?)?

 

正直、ちょっと飽きてるところはある。

しかし、割と続けていけるものである。

 

麻酔科医ハナより、火浦先生の名言

患者さんから直接に「ありがとう」と言われることは、他の科に比べると遥かに少ないし、スーパードクターとしてテレビやドラマの題材になることはほぼない。

 

もうひとつには、人間に備わっている能力的なものもあるかもしれない。

ちゃんとやんねん、毎日やんねん

「反復、継続、丁寧」な作業を楽しいと感じる人には向いている仕事なのである。だからか、球技よりマラソンとか好きな人が多い。

 

この「反復、継続、丁寧」な作業を続けることは、麻酔科医として必要な能力が少しずつ育っていくことにも繋がる。

逆に、若いうちに麻酔科を辞めていく人は、これが苦手の人が多い。結局何かしら、麻酔科医として必要な能力や知識が不十分な人が多い

 

性格としては「承認欲求が低め」で「自己肯定感が高い」人が多い。

こだわりが強いので、研修医などが理不尽に怒られたりする。

一見、静かでまともそうに見えて、中身は偏屈な人が多い。

 

以上のことから、麻酔に自分が向いてるかどうかは何となく推察出来るのではないだろうか。

 

とはいえ、これは、麻酔が上手かどうかとは別問題である。

結果的に安全を担保するという、共通のゴールがあるとはいえ、そこに至るまでに得手不得手はどうしても存在する。

 

慎重かつ判断が早く知識も正確で豊富、更には手先も器用で臨機応変

でありたいと思うのだけれど、、、

そういう点では、自分は向いてなかったかもしれない

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5. おわりに:麻酔科の未来予想図

さて、ここまで麻酔科医の現状と適性について書いてきたが、最後に麻酔科の未来の展望について予想してみたい。

 

正直なところ、「曇りのち雨」といったところだ。

そもそも医療業界全体がそうであるともいえる。

勿論、他の業界と比較すれば、まだ医師は当たり前だが相当強い。

 

まず、大きな変化として手術数の大幅な減少が挙げられる。非手術医療の発達、日本の人口減少、そして外科医の減少という複数の要因が重なり、麻酔科医が活躍する手術室の絶対数が減っていくと推測されている。2040年問題なんて呼ばれている。

 

とはいえ、2040年までは安定していると考えられるならば、やはり相当強いだろう。私もこの予測は間違っていないと思う(5年ほど早まる可能性はある)。

 

 

そして、麻酔とAIとの親和性の悪さが挙げられる。

 

新規の基礎研究におけるAIの寄与は小さい。

 

病気に対する特効薬(いわゆる分子標的薬みたいなものや、幹細胞治療など)みたいなものは麻酔科には無い。

 

麻酔に関係する薬で、根本的に新しいものは無さそうである(可能性はゼロではないらしいが)。

出るとしたら、より精度の高い、鎮痛薬、鎮静薬といったところなのだろうか。

 

そもそも、麻酔は「手段」であるから、研究テーマとして光が当たりにくいと言えるだろう。

 

 

とすると、麻酔をAIがサポートする未来というのが、一番に思い浮かぶところなのだけれど、それもやや出遅れている感じがする。

 

一つに、臨床データの不正確さが、AIの参入を妨げている。麻酔科医内での個人差がありすぎる。

 

また、AIまでは必要なく、自動化プログラム程度で十分かもしれないし、

簡単に言ってしまうと地味な領域なので、開発者や研究者から市場として認識されていない。

 

現に、イーロン・マスク氏などは、手術ロボットを作って、外科医を取って替わろうとしているようだ。

 

 

さらに、麻酔科医にとって、AIのサポートが面白く思えるかどうか甚だ疑問である。

 

ヒントをもらって解くマインスイーパーが面白いか?という話である(もちろん、ヒントをあげたくなるような人もいるのだけれど)。

 

そして、結局のところ、AIは麻酔科医の仕事を奪うという結論にたどり着く。

 

麻酔看護師とAIの組み合わせによって、8割以上の麻酔は代替可能だろう。

 

病院に責任者として麻酔科医は1人で十分になる時代は遠くないかもしれない。

 

令和6年度の診療報酬改定を見てみても、医療現場におけるAIやDXへの対応が、専門医制度やサブスペシャリティの議論以上に重視されている印象を受ける。

もしくは、集約化と、急患に対応することに重きをおいている。

 

技能や専門医という資格より、国の言うとおりに(いい言い方をすれば、社会の役に立つように)働く医者が欲しいというのが明らかだ。

 

なので、個人的には、

若い研修医や専攻医にオススメする道筋としては、

地道に大学レベルの病院で研鑽を積んでいくのが良いと思っている。

 

今の国の戦略では、まず小さな病院を潰しにかかっている。その次の手(更に2年後)では、美容などにもメスを入れる気が満々だと思われる。

 

そのため、直美で生きるにしても、10年以内に数億を稼ぎきってFIREを目指す覚悟がないと厳しいだろう。

それは、至難の業だし、とてもハイリスクだ。

 

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ここまでの話の通り、

あまり明るい内容ではない。

 

実際に先での新入社員向け説明会でも、消去法的にうちの会社がいいですよー、という何とも言えない結論で笑いをとった。

 

まぁでも、「他人と比較しない」というスキルと、先ほど書いた適性さえある程度合致すれば、麻酔科は結構オススメだ。

 

本音を言ってしまうと、新入社員が入ろうが入らまいがどうでもいい。

 

そこまで自分に影響がないのである。

 

自分のやるべきことを続けつつ、うまいことやっていくしかないなと思う、今日この頃である。

 

 

2026年2月11日